ネット通販の普及と活字離れの影響で、昔ながらの街の本屋さんが次々と姿を消しています。本を取り巻く環境が大きく変わりつつある今、注目されているのが新たな流れ”サードウェーブ“ともいえる「独立系書店」です。独自の視点や感性で、個性ある選書をする”新たな街の本屋さん“は、何を目指し、どのような店づくりをしているのでしょうか。


【連載2】
人と本、人と人をつなげていきたい
ひるねこBOOKS(東京・根津) 小張隆さん

猫と北欧。雑貨はあくまできっかけに
根津駅から徒歩6分ほど、谷中キッテ通りにある「ひるねこBOOKS」は、猫の本や絵本・児童書、暮らしやアート系の本など、古書と新刊の両方を扱う本屋さんです。谷根千という土地柄、観光客も多く訪れることから、本だけでなく北欧のものを中心とした雑貨もそろえています。オープンは2016年1月。店内は約6坪と決して広くはないのですが、こだわりの本や雑貨に包まれる心地よい空間です。ひるねこBOOKS店主の小張隆さんが考える、これからの街の本屋とは?
── 荻窪ご出身で、前職は児童書出版社。学生時代のアルバイトも取次や書店……本とのご縁が深いですね。
そうですね。昔から本は好きだったので、自然と本にかかわる仕事を選んできたみたいで。児童書出版の童心社にいたときには、営業担当でいろいろな本屋さんを回るのが仕事でした。やりがいのある仕事でしたが、入社6-7年目くらいかな。「このままでいいのかな」と思い始めて。具体的にいつというのはないのですが、
漠然と自分で書店をやりたいと思うようになりました。それから本屋を開くための講座に通っているうちに、自分の中で義務感に近いような気持ちがふつふつとわいてきたんです。

── お店には猫の本のコーナーがありますが、小張さんも猫を飼っていらっしゃるんですか?

今は残念ながら飼ってないんですよ。実家にはずっといますけど。猫は好きですし、猫の本や雑貨なども置いていますが、あくまで主体は本なので、猫がいるから会いに来る店にはしたくなくて。猫好きの人が雑貨や展示を見に来てくれたことがきっかけで、本との出合いが生まれればいいなと思っています。
同様に北欧雑貨が好きな人にも本を紹介していけるといいのですが、まだまだ現実は厳しくて、本を手に取るのはやはり元々本が好きな人ですね。

お客さんの興味の先を提案する

── オープンから2年と少し経ちましたが、開店当時と比べて何か変わりましたか?

当初は古書と新刊の割合が8:2で古書の扱いが多かったのですが、店を始めていろいろな出版社とのつきあいやお客さんの要望などを聞くうちに、新刊が増えました。今では新刊は4割ほどになっていますし、これからもっと増えると思います。オープンの頃は観光客が圧倒的に多かったのですが、最近は地元の人がリピーターとなって来てくださることが増えてきて。児童書や絵本も多いので、お母さんたちのグループなどもよくいらっしゃいます。
── 本に興味を持ってもらうために、どのような取り組みをされているのでしょう。
まずは展示や雑貨などを見に店にきてもらって、それから徐々に本と人、人と人を結びつけていければと考えています。自分の興味とは違う新たな発見ができるのが、ネットにはできない実店舗の本屋の強みですし。本屋でどんな体験ができるか、どういう人とつながれるか、そしてどんな知識を得られるかなど、本を売るだけでない、プラスアルファのことができるかを問われている時代かなと。これからの街の本屋の生きる道はそれしかないという気もします。

「ひるねこBOOKSレーベル」誕生秘話
── これまでの展示やイベントで好評だったのは?
やはり猫ですね。何人かの作家さんのグループ展で「ねこのひるね」展をしたときは、遠くからも足を運んでくださいました。それから、昨年6月に個展を開催したイラストレーターのサユリ・ミナガワさんと組んで、今年の1月『みけねこてんちょう』という絵本を作りました。「ひるねこBOOKSレーベル」第一弾です。ミナガワさんは魅力的なイラストを描かれる方で、18歳までノルウェーに住んでいたのですが、国旗に惹かれて偶然来店され、雑貨などを見ていただいたことが始まりなんです。
── 雑貨から本、つながってますね。『みけねこてんちょう』は小張さんが編集されたのでしょうか。
ええ、企画と編集を私がやりました。猫を主人公、舞台を本屋にして絵本を作ったらおもしろいかなと。絵本作家になりたい方は多いのですが、元々児童書の会社にいたので、それがどれほど難しいことかもわかっています。だからこそ、新しい書き手さんを育てる場を提供していきたいと思っていて。爆発的に売れなくても、1冊形になれば、作家さんの名刺代わりになりますし、他の出版社から本を出せるかもしれない。新たな才能を後押しすることは、これからもやっていきたいですね。
── これからの目標をお聞かせください。
今は絵本だけですが、予算に応じてセレクトコースというのを用意しています。お知り合いのお子さんやお孫さんなどへのプレゼントにちょうどいいと好評なんですよ。ゆくゆくは大人の本でもやりたいですね。あとは、大きな場所でのイベントなども仕掛けていきたいと考えています。ここは6坪弱しかなくて、できることが限られているので。ブックフェアなのか、東京蚤の市みたいにするか、具体的ではありませんが、たくさんの人を巻き込んで、本と人をつなげていくことをこれからも続けていきたいです。

学生時代は宮本輝が好きで全集を買い込んで読んだという小張さん。宮澤賢治も好きで、作品だけでなく人となりや思想的なことも理解してから読むと、より深みが増すそうです。絵本や童話も子ども向けの本と決め込まず手に取ってみると、子どもの頃と違った視点で楽しめるかもしれません。「ひるねこBOOKSレーベル」第二弾はこの秋にも企画中。6坪から広がる大きな夢、楽しみですね。


ひるねこBOOKS小張さんのおすすめ本
『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』内田洋子(方丈社)
15世紀グーテンベルグの時代からルネサンス、そして現代へ。イタリア・トスカーナの緑に囲まれた小さな村に住んでいた人たちが、なぜ山を下りて方々に本の行商をすることになったのかを辿っていく物語で読みごたえがあります。本屋の源流ともいえる話。本屋でない方にも読んでみていただきたいです。
『みすゞ詩画集[花]』金子みすゞ、栗原佳子(春陽堂書店)
金子みすゞの詩に押し花作家の栗原佳子(現、若林)さんの作品を添えて構成されています。中でも、売った花の幸せを夢見る「花屋のじいさん」の詩は本屋である僕の心に沁みました。花束の押し花も美しい。詩集は読むモードにならなくても読めるので、疲れたり迷ったりしたときに開いてみてください。

ひるねこBOOKS
住所:〒110-0001 東京都台東区谷中2-1-14-101
TEL:070‐3107‐6169
営業時間:11:00 – 20:00
定休日:毎週火曜
https://www.hirunekobooks.com/

プロフィール
小張 隆(こばり・たかし)
1984年、東京都生まれ。児童書出版社の童心社を退社後、2016年1月、根津にひるねこBOOKSをオープン。本と北欧雑貨を紹介しつつ、絵本のプロデュースなども手掛けている。


写真 / 隈部周作
取材・文 / 山本千尋
この記事を書いた人
     春陽堂書店編集部
     「もっと知的に もっと自由に」をコンセプトに、
     春陽堂書店ならではの視点で情報を発信してまいります。