ソファーが来るまでの待つような会話

青いソファーがくるという。ソファーがくるなら、部屋に空間をつくらないとだめだよね? と聞くと、くうかんってなんのこと? と言う。だってあれだよね、椅子を抱いたひとびとが出入りするし、おおきくてながい椅子がここをとおってこうしてここをまがり、そこにいくわけでしょ、どうしてそんなすごいことしようとおもっちゃったんだろう、なんか、くらくなってきた、とわたしは言う。すごいことって、くらくなるよ。
いや、でもね、すごいことってなんどもなんどもくるでしょ? ハッピーなこともラッキーなことも残酷なことも凄惨なことも。すごいことがなんどきてもふつうの顔して自転車のったり爪を切ったりハンドクリームつけたりしなきゃならないわけでしょ? そんなすごいことでいちいち暗くなってたらいきてけないわよ。そうでしょ。
そうだね、とわたしは言う。そうだね、でもね、そうなんだ、とわたしは言う。そこで黙ってしまう。わたしにはソファーの話もすごいことの話もうまくできない。チャイムが鳴る。わたしたちが反応しないのでもう一度念を押すように鳴る。たぶんそのうちドアが激しく叩かれる。

この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)1982年、新潟県生まれ 川柳作家
安福 望(やすふく・のぞみ)1981年、兵庫県生まれ イラストレーター