眼鏡だけ残る運命

「ぼくなんかはだんだんとうめいになっていって、さいしゅうてきに眼鏡だけのこればいいとおもってるんだけど」「オズの魔法使いの魔女みたいに?」「え、どういうこと?」「だって、あれはドロシーに水をかけられて、魔女のからだが溶けて、彼女の履いてたルビーの靴だけ残ってたから」「あ、そうか。じゃあ、そういうことになるのかな。そういうことにしてもいいのかな。いつかとつぜん竜巻にのってやってきた女の子からわけもわからず水をかけられて、全身が溶けて、掛けてた眼鏡だけ残る運命」「ルビーの眼鏡?」「いや、ただの、眼鏡。魔法やルビーとはなんのかかわりももたなかった、ただの眼鏡。さいごにぼくもいなくなって、水と眼鏡が残った」

この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)1982年、新潟県生まれ 川柳作家
安福 望(やすふく・のぞみ)1981年、兵庫県生まれ イラストレーター